旅とフルーツ

えーっと、世界一周してきます。。

列車の旅


2016/04/22  金曜日


朝の9時頃に目を覚ました。教えてもらった張家界に行くため、まずは上海南駅に向かう。足はボロボロだが、歩くしかない。そういう旅がしたかったのだ。

到着後、チケット売場に向かう。ここに行きたいと、メモ帳に書いておいた張家界の文字を指差す。寝台か通常の席か、その他色々聞かれたが、前日教えてもらった通りに伝える。最後にパスポートを見せ、すんなりと購入することができた。値段は189.5元。日本円で3000円ちょっとだ。安い。なんたって、約1100キロもの距離があるのだから……。

列車に乗ってみると、座席は90度で、寝るには厳しい角度だった。もちろん、座席を倒す機能はなかった。
車内は相席のような形で、進行方向に対して右側は4人席、通路を挟んで左側は6人席となっている。6人席の通路側、進行方向と逆の位置が私の席だった。景色が見たかったので、窓から遠いのは残念だったが、隣の女性が美しい。私は、それだけで自分の座席に満足した。

列車は、予定時刻を10分ほど遅れた午後5時20分、張家界に向け動き出した。窓からは散々歩いた上海の艶やかな街が見えていたが、列車の速さにかかれば、その姿は5分ともたなかった。あっさりと、最初の街を出てしまった。もう少し長居すれば良かったかなと後悔したが、思い立ったときが旬なのだと、そう自分に言い聞かせた。

車窓からは、乱立した無個性な建物がみえた。廃墟のような街に、絢爛なマンションが一棟建っている所もあった。

車両内では、時折大きな声が響き渡る。車内販売の声だ。売っているものは食べ物や靴、ご利益ある(?)ハンドクリームなど、その種類は様々だった。
時間は夕飯時になり、乗客たちも何かしら食べ始める。私もあらかじめ買っておいたクッキーを食べるが、腹の足しにもならなかった。水で腹を満たそうと躍起になっていると、前の席に座っていた青年が販売員に声を掛け、丸いパックに入ったものを購入した。中身はビビンバに似た料理で、頬張る姿を見ていると、私もそれが欲しくなった。食欲には勝てない。私は、車両を折り返してきた販売員から買ってみた。蓋をあけると、ツンとくる辛味が食欲をそそった。箸を割り、青年と同じように頬張る。もの凄くおいしい。中華料理はなぜ評価が高いのか、少し分かった気がした。

私の食べる姿を見て、周りの中国人が一斉に注目した。私はニコッと笑いかけ、美味しいと表情で伝えると、そうかそうか、それは良かったと言うように、彼らは笑顔を返してくれた。旅行者として、何より日本人として嬉しかった。

腹が満たされると、強い眠気に襲われた。眠る努力をしてみるものの、何せ環境が悪い。座席は硬く直角で、足を伸ばすスペースもない。体勢を変え、あれこれ工夫しているうちに空が白み始めた。私は眠ることをキッパリ諦めた。

私は、前に座っている青年に「張家界には何時に着くのか」と訊ねた。13時頃だと教えてくれた。「まだまだじゃないか!」と心で叫んだが、そこから列車の旅はとても楽しいものになった。その青年をはじめ、近くにいた乗客が次々と質問してくれたからだ。こちらもいくつか質問し、中国語でのあいさつや道の聞き方を教わった。ちゃっかりと、隣の女性に名前を教えてもらったが、私は正しく発音できなかった。話している最中、薬指に光る指輪を見てしまい、少し心が沈んだのを覚えている。

度々停まる駅で乗客もぽつりぽつりと降車し、車両には私と青年、ほか数名の中国人だけとなった。……隣の女性も降車してしまった。
そこからしばらく走ると、大きな街が見えてきた。青年が張家界だと笑顔で言う。ようやく辿り着いた。20時間以上も列車に乗っていたことになる。これもまぁ、いい思い出か。
20時間ぶりに荷物を抱え、その重さを肩に感じながら、私は駅の改札をくぐった。


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上海駅構内にて撮影