旅とフルーツ

えーっと、世界一周してきます。。

出港


2016/04/19  火曜日

不安はなかった。
込み上げてくる悲しみも、またなかったように思う。印象に残っているのは、玄関口で手を振るも、目を合わせてくれなかった父の姿だった。

母の運転する車で最寄り駅へと向かった。そこからは電車で1時間、バスで10分程の道のりで、あっさりと、出発地である大阪港へと到着した。
出国手続きに時間は掛からなかった。拍子抜けな気もしたが、日本人が母国から出るだけだ。難しいものではないのだろう。
手続きを終え、ロビーで待つよう指示される。大きな窓ガラスが並んでおり、ガラス越しに、私を上海へと運ぶ船が見えた。大きな船ではない。ただ、陽の光を浴びて白く輝いていた。

乗船すると、部屋に案内された。8人部屋だが私しかいない。乗客は中国人が大半のようで、部屋が別れているらしい。
一息つき、荷物の整理をしていると、それまで聞こえていたエンジン音がより一層大きくなった。アナウンスが鳴る。準備が整ったようで、時間を30分ほど早めて出港するとのことだった。

私はデッキに出て、頬にあたる風を感じた。離れゆく日本を眺め、これから始まる旅について、あれこれ考えを巡らせた。
自室に戻り、携帯の電波が届くことに気づく。無事に乗船したことを、メールで母に告げたかったのだ。泣き虫な私は涙してしまうかと思ったが、ここでもまた、そのようなことはなかった。

高揚感に包まれることもなく、不安にかられることもない。ただ、なんとも言えぬ気持ちが全身にまとわりつき、それは私を離してはくれなかった。

そんな気持ちのまま、私を乗せた「新鑑真号」は、最初の国である中国・上海へ進路をとり、穏やかな海上を進んでいった。


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大阪-上海  新鑑真号にて撮影